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2007年01月02日

動物のスター

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 “動物園のスター”はもちろん“ぞうさん”ですね。それでは“動物のスター”となるとどんな動物が思い浮かぶでしょう? 私は“チンパンジー”です。頭が良くて芸達者、ハリウッド映画でも活躍しているので、なじみが深いですね。

 日本のコマーシャル業界でチンパンジーが活躍し始めたのは昭和37年、大きなリボンを付けて登場して話題になったバヤリースオレンジのコマーシャル。他にも明治製菓のコマーシャルなどを覚えている方もいらっしゃると思います。※45歳以上の方なら(笑)

今回は私とチンパンジーの歴史を振り返ります。

 
 
 最初に出会ったのはオスのロッキーです。今から28年前、経営していた小さな動物プロダクションでチンパンジーを購入しました。オスとメスがいて、2日間預かってどちらかを選ぶことになりました。1歳前後の小さなチンパンジーたちです。哺乳瓶でミルクを飲む姿がまるで人間の様で私は感動してしまいました。そしてロッキーと一緒に暮らすことになりました。
 それからは昼夜を問わずに一緒でした。おくるみを着たロッキーをおんぶしたまま商店街へ買い物に行った母が「ずいぶん毛深い赤ちゃんだね」と通りすがりのおばあさんに目を丸くして言われたという嘘のような本当の話もありました。翌年、私は次女を出産しました。それからは赤ちゃんが二人いるようなもので、我が娘はチンパンジーと共に成長していきました。一緒に食卓を囲み、どこへでも連れて行ったものです。タレント動物としては余り活躍しませんでしたが、仕事が無くても勉強のためスタジオにも連れて行きました。
 ちょうど同じ頃、千葉県のあるお寺でトラが逃げるという騒動があり、動物に関する条例が施行されるきっかけとなりました。ゾウやライオン、サルなど危険とされる動物たちは定められた規格の檻で飼育すること、移動する際は届出が必要になりました。

 それまでの自由な生活から一変、ロッキーは檻で過ごすことが多くなりましたが、それでもなるべく家族同様に接することを心がけました。一緒に育った娘のことを妹の様に思っていたのでしょう。驚いたことに、1本のバナナを半分に分けて必ず娘に分け与えていました。動物が仲間に食べ物を分けるのは限られた場合です。ロッキーの人間に対する家族意識や仲間意識が強かったのでしょう。
 タレント動物としても少しずつお声が掛かるようになってきました。TBSの伝説的番組「8時だよ!全員集合!」では生放送にもかかわらずタレントさんと絶妙なコントを演じたり、子供向けの番組にレギュラー出演したり、コマーシャルも何本もこなしました。
 もう時効なのでお話ししますが、檻から逃げ出したこともありました。その頃、南京錠と補助としてダイヤル式の鍵を掛けていたのですが、南京錠を掛け忘れてしまったのです。バラバラにしてあった5桁の数字を組み合わせ、見事に外に出たロッキーはすぐ隣にあった我が家に飛び込んできました。「家に入れてよ!」まるでそう言っているようでした。

 8才を過ぎると、力も強くなり檻から出してあげる回数も減ってきました。蟹が大好物で、その日だけは特別に食卓で一緒に食べたりもしました。それができなくなっても夕方必ず食卓のおかずの中で彼が好きなものを持っていってあげました。家族以外の人間との交流が難しくなってきて、タレント動物としての仕事は段々と少なくなっていきました。  
 ロッキーにお嫁さんを迎えたのは彼が15才の時。お嫁さんはサーカス出身のヘビースモーカー、人間に育てられた子で姉さん女房。赤ちゃんの誕生を期待したのですが、半年も経たないうちに肺がんでお嫁さんは死んでしまいました。それから2年後の冬の寒い朝、ロッキーは静かに息を引き取りました。


 亡き息子 哲夢が可愛がったのが2代目タレントチンパンジー ジュリーです。私はロッキーとの関係を保つため、ジュリーには少し距離を置いて接しました。哲夢とジュリーはまるで親子のようでした。水が嫌いなチンパンジーですが、一緒にお風呂に入り、食事や寝る時も一緒でした。もちろん、コンビでテレビや映画の仕事もたくさんこなしました。動物プロダクションの仕事ではチンパンジーとゾウが稼ぎ頭でした。
 哲夢はゾウだけでなく他にもたくさんの動物たちと信頼関係で結ばれていました。彼の葬儀ではランディだけでなくジュリーの目からも大粒の涙が溢れていたのです。


 今から12年前、私の中学時代からの友人の息子で、哲夢とは兄弟のように過ごしてきた「ルカ」が私の動物園で働くことになりました。サルが好きな彼の夢はチンパンジーの調教でしたが、その後ジュリーも亡くなり、最終的には檻に入れなくてはならないことに疑問を感じつつ私はチンパンジー飼育に区切りをつけました。
 4年前の秋、ある動物商から「チンパンジーを買わないか?」と持ちかけられました。最終的に檻に入れなければいけない…そんな想いと「ルカの夢」の狭間で悩みましたが、ルカの熱意に後押しされて購入を決めました。
 
 ロッキーの時と同様で候補として2頭のチンパンジーがいました。お母さんが違う異母兄弟で、両方とも育児放棄のため人工飼育されていました。2頭が暮らす九州の動物園まで見に行き、スマイルという名前のオスのチンパンジーに決めてきたとルカが嬉しそうに写真を見せてくれました。1才半の小さな姿にロッキーが思い浮かびました。また、にぎやかな食卓になるかもしれないと。その年の冬、久しぶりに私の動物園にチンパンジーがやってきました。

 少しやんちゃで甘えん坊のスマイルをおんぶして歩いているルカの姿はまるで哲夢とジュリー。ちょうどその頃テレビ番組で華々しく活躍しているスマイルと同じ年の頃のチンパンジーがいました。ご存知、パン君です。実は候補だったもう1頭とはパン君だったのです。
 パン君の活躍を横目にスマイルにも深夜番組に出演してほしいというオファーが来たのは今年の4月のことでした。番組のキャラクターとして芸名まで頂きました。深夜枠であるにもかかわらず視聴率が良いということでしたが、少しお笑い路線になりすぎる傾向があり、内容を修正していただこうと思っていた矢先、「種の保存法違反か?」という騒動になりました。番組が毎日10分間くらいの放送で夜中ということで、毎日のようにチンパンジーがスタジオに出向いていると誤解されていたことも原因のひとつでした。
 番組をご覧になればご理解いただけると思うのですが、スタジオでのスマイルは人間に育てられたチンパンジーらしく何にでも興味を持ち、真似をしています。その姿が自然に笑いを誘うのです。チンパンジーは決して身近な動物ではありません。野生では絶滅が危惧されていますが、番組が動物を知ってもらうことに繋がっていると私は信じています。

 動物をあちこち連れまわり、動物の環境を変えることが動物にストレスを与えるという意見があります。それは育てられ方によりぜんぜん違うものだと思います。私は3歳になる通勤猫を飼っています。車の中では王様気分 動物園にきたら自由奔放に走り回り夕方になると事務所に帰ってきて、一緒に家へ帰ります。動物も人間もですが、育て方でそれぞれに生きがいが生まれるものなのです。

 子供たちに夢を与えているカドリードミニオン(熊本)のパン君、毎日たくさんのお客様の拍手をもらいがんばっているユニバーサルスタジオ(大阪)のジラちゃん、そして深夜疲れて帰ってきた若者のアイドル スマイル、この3頭の父親はオランダ生まれのアンチャン(宮崎フェニックス動物園)です。3頭とも別の母親の育児放棄で人工飼育されましたが、彼らがとても頭の良いチンパンジーであることは間違いありません。シャボテン公園(静岡)のアスカちゃんやダイゴ君もがんばっています。数少ない日本でのタレントチンパンジーの活動は今後どうなっていくか分かりませんが、出来る限り続けていきたいと思っております。

           <ELPHA FRIENDS & LEA NEWS 2007新春号に掲載>

投稿者 sayuri : 2007年01月02日 10:18