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2005年09月30日

私のランディ<園長のエッセイ>

randhi.jpgランディはメスのアジアゾウ。小さいときにタイ王国から日本に来ました。今年25才(推定)になります。ゾウの25才は人間と同じくらいですからお年頃のお嬢さんです。性格は穏やかで人間好き、そして何よりも食いしん坊です。「もっとちょうだい、もっとちょうだい」といつまでも大きな口を開けて食べ物をねだります。その食欲は旺盛で1日に約100kgも食べます。甘いもの大好きで、外に出かけるときにもっていく「黒糖入りの角砂糖」をとても楽しみにしています。この角砂糖は大阪から取り寄せているブランド品で他にもいろいろ試しましたがゾウに一番あっているようです。一袋くらいはぺろりと食べてしまいます。人間でも疲れているときは甘いものが食べたくなるもの。ゴールデンウィークなど動物園が混み合うときや、外でお仕事をするときに、ぞうさんにとって必要なオヤツなのです。他にもパイナップル、りんご、にんじん、スイカ、バナナなど果物も大好きです。毎日約50kgの干した草も食べます。こちらはニュージーランド産です。自然界だとぞうさんは常に何かを食べています。3トンにもなる巨体を維持していくためにはたくさんの食べ物が不可欠です。私の動物園でもぞうさんの食欲を確かめるのは体調を知る上で重要なことなのです。

 ランディに初めて会ったのは名古屋で開催されていたサーカス会場でした。借金のため差し押さえられているゾウがいるから買ってもらえないか?そんな連絡が私のところにあり、まずはそのゾウに会ってみようと思ったのです。でも直接お世話をしている方とは事情があって会えず、私はサーカスの会場でお客としてそのゾウを見ることになりました。推定8才の小さなゾウです。その頃は「リンダ」と呼ばれていました。皮膚がぶ厚く、何年ものあいだ洗ってもらっていないような、どす黒い色をしています。なんてかわいそう・・・私は思いましたが、お客様の前で次々にサーカスの芸をするランディは楽しそうに見えました。

 「うちで引き取ろう」私は購入を決めました。同じ年、ライティという子ゾウを亡くした私にはランディがライティに見えたのです。「あの子が帰ってきたみたい・・・リンダ、ライティ、リンダ、新しく名前をつけましょう。あなたの名前は”ランディ”よ」その頃我が家には2頭のゾウ、ミッキーとミニスターがいましたが、すぐに仲良くなりました。サーカスというある意味特殊な環境で暮らしてきたランディには自然に身につけた生活をしていく知恵があったのかもしれません。物怖じすることなく新しい生活になじんでいきました。

 また、小さい頃から「移動」に慣れているランディにとって、日本各地で行われる様々なイベントに出かけることはたやすいことのように思われました。事実我が家に来て10日程で福岡でのイベントをこなし、意気揚々と帰ってきたのです。これまでにも各地のイベント、パレードや式典、コンサート、テレビ番組や映画、オペラの舞台など、本当に数え切れないくらい出かけています。

 どの仕事でもきちんとこなし、お出かけするのはランディが一番安心。私はずっとそう思っていましたした。でも先日あるイベント会場でランディがバナナを食べなくなったというのです。あの食欲旺盛なランディに限ってありえないことです。私は現場にいなかったのですが、原因はビルの窓掃除。スパイダーマンのように建物を動く姿にランディが動揺したのです。彼女にしてみれば「なんで、あんなところに人間がいるのかしら?」と思ったのでしょう。そわそわして落ち着きがなくなり、バナナを鼻に渡してもポロリと落としてしまう。ゾウは一般的に視力が弱いと言われていますが、数百メートル先の人間を見つけてしまうなんて。きっとその聴力を活かして察知したのでしょう。
 その報告を受けていた時、私はとっさに言いました。
「ちょっとランディに電話を代わってちょうだい!私が話すわ」
スタッフは半信半疑で携帯電話をランディの耳元へ持って行きました。
「ランディ、ママよ。怖い思いをさせて悪かったわ。でももう大丈夫。何も怖いことはないのよ。今日ちゃんとお仕事が終わったら市原に帰れるわ。いい子にして言うことを聞くのよ」
ありったけのねぎらいの言葉にランディが反応したのかわかりません。でも携帯電話の向こうから聞こえてくる私の声に耳を澄ませ「もうわかったから」と言わんばかりに耳をパタパタさせたそうです。

 お仕事大好きランディには儀式があります。それは初めての場所にある物を一つ一つ鼻でそっと確かめることです。これは大丈夫、怖くない、ちょっと怖い、・・・その儀式を繰り返していくのです。この前行われた福島での試写会場でも大きなスクリーンを鼻先でちょんと触りました。幸い大事にはなりませんでした。触れない物は鼻を高く上げて匂いを嗅ぎ、耳をすませます。だいたい確認を終えると落ち着くのですが、千葉の田舎で長年過ごしたランディにとって都会はすべて物珍しく思うようです。遊園地の乗り物や電車など「あれは何?」と思うものも少なくありません。電車を直接触ることが出来ればあまり悩まないのかもしれませんが、そうもいきません。そんな時は電車が通るたびにゾウ使いが側についてランディをなだめるのです。そのうちに慣れて気にしないようになります。

 陸上で一番大きな動物、ゾウ。その豊かな感性と高い知能に驚かされてばかりの私ですが、ランディと接していていつも思うことがあります。人間を共に生きる仲間だと認識し、愛する。大きく包み込んでくれるようなランディの人間に対する愛情表現に私はいつも癒されていると感じるのです。
 最近はイベント会場で「ランディ、ランディ」と声をかけられることが多くなりました。お尻を向けながら、もくもくと食事をしているランディの耳が子供たちの声を感じているのを私は知っています。そして気まぐれに近寄り、鼻をのばして、子供たちの柔らかな髪をふわりとかすめるのです。その鼻先はとても優しく、繊細です。「きゃー」と上がる歓声に、私はランディが満足げに微笑んでいるように見えました。

                                    ELPHA FRIENDS & LEA NEWS夏号に掲載


投稿者 sayuri : 2005年09月30日 14:17